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地理本ジャーナル

地理、鉄道、道路、地形、山、たまに政治経済。の周辺をとにかく紹介していくブログです。

【書評】「事実」と「物語」、「論理」と「歴史」を操る稀有な都知事を失った代償の大きさを実感する『東京の敵』(猪瀬直樹)

 

東京の敵 (角川新書)

東京の敵 (角川新書)

 

「都議会のドン」本拠地決戦、雌雄を決する注目の書

 知事と自民党都連の代理戦争、千代田区長選(2月5日投開票)を目前に控えたタイミングで出版された本書。小池都知事誕生の大きなきっかけになったといわれる、告示日前日に行われたニュースサイト(News Picks)への寄稿。同じ役割を本書が果たせるか否か。注目の書です。

newspicks.com

結論から言うと、面白い!過去の著作同様、テンポがよく一気に読み終えることができました。「学者のように調べ、小説のように書く」と評される著者です。真骨頂を見せつけられた思いです。

ファクトに基づかない意思決定プロセスの不透明さとメディアの不勉強

前半は、都政の意思決定プロセスがいかに不透明で、感情的なものになっているか、オリンピック、豊洲問題等を題材にして明らかにしていきます。東京メトロ都営地下鉄の統合問題、小泉政権時代に取り組んだ道路公団民営化問題についても言及。ファクトとロジックで、優秀な官僚機構に切り込んでいく必要性を説いています。ベテランの記者が配置されないなど、国政に比べて十分に機能しない都政報道の問題点にも触れます。

ストーリーテリング」。東京のみならず”夢ある日本”を実現する現実的な処方箋を立体的に

一転して後半は、歴史的観点で東京、日本の政治・経済・文化を立体的に描きだす。そして夢ある将来像を提示していきます。江戸時代後半のゼロ成長時代に、独自のアイデアを考案し、実践した二宮金次郎の知られざる功績、幕藩体制と連邦制の類似点を指摘し、日本の近代化(西欧化)が急速に進んだことは偶然ではないとする主張など、歴史的な事実を現代に当てはめたうえで、日本の将来性や夢を語ります。歴史の上に現代があることも実感させられます。大阪万博の開催、民を中心とした新しい金融の仕組みを所管する「公益庁」を大阪に設置することで、官都東京と民都大阪の役割を明確にし、日本を力強く牽引していくべきと主張します。

あまりに惜しい。新知事に期待すること

ロジックとファクトを駆使できる官僚・政治家出身知事と、ビジョンを提示できる作家・学者出身知事が時代、時代で出現してきた歴代都知事を振り返って見るとき、著者が知事に就任したのは歴史的大転換点であったと思うし、必然であったようにも思います。ファクトとストーリーを縦横に行き来できる新しい都知事の誕生に都民は大きく期待した。史上最高の得票は決して偶然ではなかったのだと思います。著者が副知事、知事時代に次々と呟くtwitterを、強い期待感とともに読んでいたことを思い出しました。

しかし、改革の舞台はあっけなく終わってしまった。原因はおそらく、人を動かす「愛嬌」と作戦を浸透させる「参謀」の不足だったのではないか。小池知事は、稀代の元都知事を反面教師に、不足を周囲の人材でカバーすることに取り組む必要があるのではないでしょうか。小池さん、橋下さん、猪瀬さん、ここに優秀な官僚出身者でも加わればかなりの政策課題を効果的にかつ夢を持って解決していけるのではないか、などと妄想してしまいました。

面白い本でした。皆様もぜひ。