地理本ジャーナル

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【書評】都政の仕組みと長期的展望の必要性をわかりやすく説明。豊洲問題を語るための前提知識を得る好著『東京の大問題!』(佐々木信夫)

 

東京の大問題! (マイナビ新書)

東京の大問題! (マイナビ新書)

 

都政研究者として最も著名な著者による新書。

小池都知事誕生に合わせて、かなり急いで作成し、出版にこぎつけたというのが本音でしょう、おそらく。

序盤はベーシックな知識の確認が中心

始めから中盤にかけては、都庁、都議会の基本的な知識の確認が中心。過去の著作の情報を整理しただけの、あり合わせ感がちょっとあります。もちろん、ところどころには著者の提言がちりばめられてはいましたが。

ところが後半は、一転、著書の持論が前面にででてくる展開になります。豊洲市場移転問題やオリンピック建設問題など、センセーショナルな取り組みだけに固執せず、税収が年によって1兆円規模でで変化してしまう都財政の現状を前提に「財政の安定化」、一気に進む「インフラ老朽化対策」、制度疲労を起こしつつある「都区制度の改革」について論が進みます。

都区制度を次の政策課題に

「都区制度」については、大阪市の特別顧問を務める著者だけあって具体的な提言が盛り込まれます。大都市政策(鉄道、道路等のインフラ、雇用政策、環境問題等)のみを遂行する政策官庁化を都に求める一方で、住民に身近な福祉、保育、児童問題等の権限を大幅に区に移譲し、中核市並みの権限を与えるというもの。ここは非常に共感できる。当面のインフラ整備については、今まで一度も地方交付税の交付を受けていない都の財政であればある程度まではもつでしょう。しかし待機児童の問題、高齢化問題など、身近な地方自治が東京において機能しているとは思えないからです。新知事は任期の後半、ぜひこの古くて新しい課題に取り組んでもらいたいと思います。この問題が東京のこれからを作る基盤として、最も重要な課題になるでしょう。

「第二の政府」と言われる巨大自治体を改めて学ぶ好著

一般会計7兆円、特別会計を合わせると14兆円の予算を持つ自治体(スウェーデンの国家予算並み)、都知事選で現職は負けたことがない、都庁官僚に学閥はない、副知事をV1、V2などと呼称する(副知事の英訳であるVice Governorの頭文字)といった(都政に関しては比較的)ベーシックな知識から著者独自の課題類型(都の政策決定・4つのパターンなど)に至るまで少ないボリュームの新書でざっと学べる好著。

感情論のみで都政をみるのではなく、本書に書かれている基本的な政策立案の前提と都が公表している文書•データを組み合わせて見るエビデンスベースのウォッチをしていきたい。そう思わせてくれました。

ぜひ皆さんもお手に。