【書評】社会にもっと猥雑を。風俗産業の政治経済史。硬派な読み応え。『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』(木曽崇)
「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」 (光文社新書)
- 作者: 木曽崇
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2017/06/15
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (2件) を見る
騙される
はやりの煽り系題名からして、どうも軽めのエッセイ、根拠薄弱の雑誌記事的内容を予想していたが、いい意味で裏切られた。統計、法改正、行政の意思決定の変遷を根拠に、問題の背景、本質を丹念に記述している。そして未来への道筋も!。読み応えのある新書だ。
まちの有効活用
断っておくが夜遊びのお得情報はない。だが、夜遊びが人間にとってどれほど重要であるかはよくわかる。もちろん体に良いという意味ではない。経済にとっては遊休資産の効率的な運用になるわけで、低迷する内需の掘り起こし、ナイトライフに不満を持つ外国人に対する有効な処方箋として、夜の経済を利用する価値は高いのだ。
リスクとの共存を
ただ、著者も述べているように、飲酒を伴う娯楽には犯罪を誘発する危険がともなう。ところがだ、今までの行政、というか日本人の備えている防衛本能が微細なリスクを必要以上におそれ、多くの規制を生み出してきた。行き過ぎたルールの多くは、国民の過剰反応の産物だ。行政が上から押し付けることはできない。そもそもいまの行政機関に都市伝説的な、陰謀めいた「策略」を巡らせる余裕も、能力もない。成熟した国として、夜の娯楽にもっと余裕を持って対応したいのだ。
まちにもっと猥雑さを
十分な根拠と丁寧な説明を重ねることで、過剰な防衛反応を抑え、あらたな規制を撤廃する。あるいは適切なものへと変えていく。街に、ある種の「猥雑さ」取り戻す。著者の思いは熱い。
渋谷区長や福岡市長など40代の新しいリーダーが、猥雑さとリスクの共存にチャレンジしている。街の熟成には時間がかかる。人のイヤラシイさや本音がみえない街は、一見すると美しいが弱い。人をまちに惹きつけることの本質を、綺麗事抜きに議論するための発射台として、本書はうってつけだ。まちづくり系の話題に興味ある人全般にオススメできるなかなかの好著である。