地理本ジャーナル

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【書評】ほぼ公開情報だけでここまで書けるのか『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(伊藤歩)

 

お見事な骨太感

公開情報を丹念によくぞここまで調べあげたなというのが読後の率直な印象です。通常の新書の3倍くらい濃度があリます。すっとは読みきれませんでした。

数字をしっかりフォローしているし、著者の法律、会計の知識が実務的に深い。制度の根本を理解しているので読み手にもわかりやすく説明できるのだと思います。とにかく題名に比べて骨太な印象の硬派な新書です。

構成は、前半、日本プロ野球NPB)の概要を経営・財務的な側面から概括的に整理。球団によって経営の方法が異なることを、親会社、スタジアム所有・運営、決算情報の公開の方法といった視点でNPB全体の特徴を述べます。後半は公開情報や、球団幹部の著書、講演録、著者自身の取材に基づいて、やはり財務、法律的な観点で球団別の詳細な分析が、まとめられています。

金融「ジャーナリスト」ならではの読みやすさ

正直、読むのに疲れました。球団別後半のセリーグでかなり息切れ(笑)。けれどもそれは内容の数字がしっかりしているから。法律や会計の専門書のように「記載に誤りのないように細かく」記述するような「しっかり」ではなく、ざっくり、けれども複数の情報ソースから目的の数字をあぶりだす「しっかり」なのです。新書の読者層にも理解できる表現がされているところが、さすが。研究者ではなくまさにジャーナリストの仕事だと感じました。

NPB経営論の目標になるだろう作品

「親会社の広告媒体」ではなくなりつつある昨今のNPB各球団。特にパリーグでは顕著。この流れはますます加速し、より球団そのものが一つの企業体として捉えられるようになると思います。Jリーグ(サッカー)、Bリーグ(バスケ)の影響もあります。

本書はプロスポーツリーグの財務・経営読み物の目標になるでしょう。中日や読売など著者の取材に未だ明確に答えない球団もあるようですが、この本をきっかけに情報がよりオープンになり、関連の著作などが増えることによってNPBがより発展していくきっかけになってくれることを希望します。

野球好きのビジネスマン、特に「この店の客単価を大体1,200円で席数30席で5回転するから・・・・」みたいなことを奥さんや彼女にひけらかすタイプの人にはうってつけの本です(私のことです)。ぜひお手にとってみてください。濃ゆいです。