地理本ジャーナル

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【書評】経済学って構えないで。政策立案への応用に期待。やさしい因果推論入門『「原因と結果」の経済学』(中室牧子 津川友介)

 

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法

 

 2度目のベストセラーなるか

最近、書店のビジネス書コーナーでたいそうにヒラ積まれています。それもそのはず、著者の一人は昨年のベストセラー『「学力」の経済学』の著者です。

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装丁の豪華さのわりには、ページ数も少なく、行間広め。余白多めなのですいすいとページがすすんでいきます。

内容も「経済学」というほど体系だったものではありません。通説は誤っているケースもあり、科学的に検証すると全く違った結論になることがある。ビッグデータの時代、根拠(データ)による意思決定が必要。そのための有効な手段として因果推論という方法があるよ、という内容がかなり平易に解説されています。

ビジネスマンを強く意識した構成

ビジネスマンを意識しているためでしょう、ジュエリーショップの店長が自分のお店の売り上げを最大化するためにどのような広告戦略をとるべきかを検討するという設定をもちいます。その際にどのようなデータがあれば意思決定しやすくなるか等を様々な因果推論手法を当てはめて解決していきます。学術研究の紹介も、「テレビと子供の学力」「メタボ検診と長寿」などとっつきやすいテーマになっています。

ランダム化比較試験の重要性

本書で頻繁に出てくる「ランダム化比較試験」。帯にも登場する西内啓氏のベストセラー『統計学が最強の学問である』にも度々出てきますが要は、

「条件の似ている二つのグループを作り、一方はなにかしら工夫し、一方は何にもしない。これでアクションを起こしたときに二つのグループに変化があるか。変化があれば、工夫の効果といえるのではないか。」

という考え方。本書では都合のよい条件が作り出せなかったり、本当は同じ条件ではないのに、同じ条件だと誤解して結論をだしてしまったりするため、悪条件下でも、いかに「確からしい」解釈ができるか、その方法を述べています。

 

 

 

 

 

この手法をどう行政に生かすのかが重要

経済学、統計学の有用性認めたうえで、為政者がこれをどこまで理解できるか。しかも正しいもとのして理解できるかどうか。

本書内では、驚くべき世界中の学説が紹介されています。

「テレビをみると偏差値があがる」

「大学の違いは、卒業後の賃金に影響しなかった」

これらの研究成果における計算の課程が正しいか否かを確認することが困難、ということが一つの問題だと思います。

いま話題のEBPM(Evidence Based Policy Making 証拠に基づいた政策形成)を実現するには、政府の中に、腰をすえてデータと向き合う職員が必要でしょう。また外部から定期的に結果を検証するプロセスが必要だとおもいました。これができれば、本書の手法で導き出されたデータは、強力な根拠になりうると。そもそも、医療政策や社会保障政策、貧困対策は、時の政権によって安易に変更されるべきものではないでしょう。こうした分野でこそ、より多く活用されるべきです。

原因がこの結果を生みだしているだろう、という仮説を設定し、正しい方法で調査し、調査結果に応じて経済政策を行い、法整備をすすめるという一連のプロセスが重要であると感じました。

東京ー新大阪間の新幹線車内くらいにもってこいの分量です。ぜひ。