地理本ジャーナル

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【書評】皮肉とファクトと怒りの融合。『損する結婚 儲かる離婚』(藤沢数希)

 

損する結婚 儲かる離婚(新潮新書)

損する結婚 儲かる離婚(新潮新書)

 

半分ノウハウ、半分評論

21時か22時に始まる新しい連続ドラマのようなタイトルです。昨今話題の離婚、不倫ニュースが題材に使われていますが、そればかりではありません。具体的な結婚、離婚の手続きを弁護士が解説している本でもありません。が、得する制度活用の方法はわかりますし、結婚に臨む哲学を得ることができます。

元研究者・元金融マンの作家が冷静に語る中くらいのノウハウ本、中くらいの社会評論になっております。シニカルな文体が心地よく、クセになる感じです。

論旨は明快。平等が生み出す不平等。

結婚契約は一種の金融債権を購入する契約。『みなが平等に「みえる」制度設計が、実は一部の人間を利している。本書の読者はこれを利用した方がいいよ。けどこれっておかしくない?是正して、みんながハッピーになるようにしようぜ。』と言うのが一貫した論旨です。

結婚後の「フロー」が大事

 私は知らなかっのですが、有責がはっきりするまで婚姻費用(本書内ではコンピ。弁護士業界用語)は、結婚後の所得(フロー)の多い方が払う。結婚までに蓄財した財産は問わない。別居している間、離婚成立するまで払わないといけないのですね。そこは男女関係ない。だからヒモと結婚しちゃうと女性は大変です。

終わりを知って、物事に取り組む重要性を感じます。こんな感じでリアルな「離婚後の経済」を裁判実務や、判例、事例による所得計算などを通じて明らかにしていきます。

 似ている。

誰かに似ていると言うのは失礼だとは思いながらも、あえて言います。

橘玲さんにそっくりです」

作者名を変えて出版してもわからないかも。

と思ったらやはりお二人、対談されてました。

diamond.jp

キャリア形成の過程はだいぶ異なるようですが(著者は研究者→金融会社勤務、橘氏は編集者→作家)、金融に精通している点で一致しています。

極めて冷静な筆致。豊富な金融・法律の知識。ファクトに基づいた論理展開、自然科学の知見に立脚して社会制度の矛盾を指摘する様。似てます。かなり似ています。

もっとこのタイプの論客が必要

このタイプの論客が増えることが必要だと思います。世の中の常識に冷静にツッコミを入れることが変革につながる。

本書の結婚制度の議論もまさにそうで、実際には「一夫多妻制なんてあり得ない」と思う人が多いし、世論はそれを補強する方向に動いてしまうことが多い。建前先行。

しかし冷静に統計データを見てみる、動物の本質を理解する、自然科学の知見と現実社会が結構リンクしていることを知る(猿であったり、社会制度の未発達な民族で行わている子殺し。先進国では刑事罰だが事実上同義の「中絶」が恒常的に実施されているなど)ことで、事実が見えてくる。そこを冷静に改善して行く。

筆者は、リベラルな思想の持ち主なのでしょう。ところどころに女性への配慮が滲んでおります。キリッとした白ワインのような作品です。ぜひお手に。