地理本ジャーナル

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【書評】サクっと3時間、もう一周読んで4.5時間で深まる『入門 東南アジア近現代史』

 

入門 東南アジア近現代史 (講談社現代新書)

入門 東南アジア近現代史 (講談社現代新書)

 

 ざっくり500年を300ページに閉じ込めた

「多様性の中の統一」が本書のキーワード。言語も違う、宗教も異なる、経済体制も別な11の国が、ゆる〜くあたかも一つの国のような存在感を示すためにひねり出された概念。近現代史と銘打っていますが、現在の東南アジア諸国の原型となった近世あたりの土着国家の説明(アンコールワットやボロブドゥール遺跡の話)からドゥテルテフィリピン大統領、南沙諸島問題まで一気に概括します。

翻弄されまくる近現代史

香辛料の産地として目をつけた列強の争奪、欧米の国民国家の枠組みを持ち込まれたことが民族同士の紛争に発展していくことから始まり、日本の大東亜共栄圏構想に組み込まれたり、第二次大戦後の植民統治の方法によって、あるいは採用された経済体制によって、同じ東南アジアの地域内で大きな経済格差が生まれてしまう。列強の都合によって「いいように」振り回されてきた様子がテンポよく表現されています。

成長もいまだ不安定な政情というツンデレが魅惑のエリア

驚いたのは、シンガポールも事実上の独裁政権であるということ。野党勢力を無視できる規模で第1党が政権を担い、政策を展開しているのは知りませんでした。マレーシア、タイもしかり。真の意味での民主国家にはまだ遠い位置にいることを知りました。しかし、事実上の独裁者による長期政権の強さ、欧米留学組のテクノクラートによる大胆な経済政策、6億人を超える域内人口といった東南アジアの潜在力と、バーんっと成長してきた強さ、そして蒸し暑い気候と若年が多い人口構成。日本との関係も、東アジアに比べれば良好です。様々な面で魅力的なエリアであることを再確認。次の旅行は東南アジアに行ってみたいな、とも思わせるパワーも感じられます。

地図がもっと欲しい。そして2度読み返したい。

地域史は話題が広範になってしまいます。本書へ注文するならば、地図をもっと掲載して欲しかった。冒頭の全体地図くらいしか参照すべき地図がないし、本文中の地名が掲載されていないので、どのあたりのことを指しているのかが少しわかりにくかったのです。

頭の中で複数の国の出来事が交錯してしまい理解しきれないことがある。本書もまさにそう。理解のためにもう一読したい。

ますます重要なパートナーになることは間違いなのない東南アジアの全貌を知りたい方、おすすめです。