地理本ジャーナル

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【書評】笑える知財本。『楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市)

 

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

楽しく学べる「知財」入門 (講談社現代新書)

 

 

 ところどころニヤニヤしてしまう、知的財産に関する新書です。面白い。

構成から読者目線

大概の知的財産に関する本は、特許法(実用新案法)→意匠法→商標法→著作権法という順番で書かれています。やはり知的財産法は特許法が基本。そこからの派生系として商標法など他の知的財産法があるため、従来はこの順番が多かったわけです。本書は、新書というある種の制約があるからでしょう、題材が身近で豊富な著作権、商標権から入ってきました。著作権法→商標法→特許法・実用新案法・意匠法の順番で記述されています。

ハードカバーの入門書であれば、条文番号もたくさん登場しますが、読みやすさを重視して記載なし。条文の内容も分かりやすく噛み砕かれたものになっています。

権利者に直接質問を投げかけるスタイル

「PUMA対SHII-SA」の戦いや、ジャニーズ事務所の早着替え実用新案、鳩山由紀夫夫人の鳩山幸さんが出願した台所用品の特許など、親しみやすい題材で知的財産権の枠組みを知らず知らずのうちに理解できるよう工夫がされています。簡単な内容だけではなく、特許の出願から特許がOKになっていくプロセスや、請求項の範囲、基本特許を抑える必要性の説明、専用実施権、通常実施権の違いなど、なかなかそれなりの専門的な知識も学べます。

特徴的なのは、弁理士という立場を生かし、直接権利者にインタビューした内容や、質問文の返答を掲載しているところです。これがなかなかリアルで面白い。様々な思惑や、経過によって権利化が行われていることが分かります。

シュールな文体も魅力

しかし、市の倉庫で寂しく保管されている「エコハちゃん」の着ぐるみが不憫に思えなくもない。この状態って、全然エコじゃないような気もする。(46p)

なるほど。「PUMA」のパロディなんてことはひとことも書かれていない。裁判官は、沖縄の歩んだ不幸な歴史のことなども意識しながら、「シーサー、頑張れ!」と応援したくなったのかもしれない。(147p)

ここだけ切り取ってもニュアンスが分かりにくいですが、文章全体が軽妙です。著者のユーモアや、果敢に該当商品・サービスを使ってみる姿勢が今までの知財本にはない感じで、読み物として楽しめます。

トレードマーク、版権という単語が一般化しているように知的財産の話題は本来身近なもの。楽しい読み物を通して再認識させてくれる良い本でした。あとがきで今後の製作意欲について言及しています。知られざるチザイ世界の伝道者として、これからもどんどん作品を出して欲しい。楽しみです。